【動画】イルカの里親行動について、世界初の発見。水産学科 酒井麻衣講師ら ※4月26日更新

水産学科の酒井麻衣講師らの研究チームが、野生のイルカによる里親行動を世界で初めて発見しました。

近畿大学農学部(奈良県奈良市)水産学科講師の酒井麻衣(さかい まい)講師らは、野生ミナミハンドウイルカが、血縁関係も親和的な社会関係もない他者の子の里親となって育てるという行動を世界で初めて発見しました。なお本研究成果は、平成28年(2016年)4月6日(水)18時(日本時間)に、英国ネイチャー(Nature)の姉妹誌である生命科学系雑誌「Scientific Reports」電子版に掲載されます。

【本件のポイント】
  • 世界で初めて、野生鯨類で里親による直接的な世話(授乳)が確認された
  • 育児経験のない若齢メスが里親になっている
  • 実母と里親の間には血縁関係や親和的社会関係がなかった
  • 今回の事例はイルカの「他者を助ける」という特性を反映したものである可能性があり、人間社会における助け合いがどのように進化してきたのかを紐解くひとつのヒントになる
【本件の概要】

今回、酒井らが確認したミナミハンドウイルカの里親行動は、野生動物の社会で従来観察される、自分の遺伝子を残すことにつながる血縁が近い個体の子どもを育てることとは異なり、強い血縁も親和的社会関係もない、全くの他者の子どもを育児経験のないワカメスが里親となり育てるという、世界でも初の事例です。イルカは他個体を助ける行動をよく行う動物であり、そのようなイルカの「助ける」という特性が今回の事例につながった可能性があります。

【掲載誌】

■雑誌名:Scientific Reports(2015年発表インパクトファクター:5,578)
■論文名:A wild Indo-Pacific bottlenose dolphin adopts a socially and genetically distant neonate
(野生ミナミハンドウイルカにおける社会的・遺伝的関係のない新生児に対する里親行動)
■著 者:Mai Sakai, Yuki F. Kita, Kazunobu Kogi, Masanori Shinohara, Tadamichi Morisaka, Takashi Shiina & Miho Inoue-Murayama

【研究の背景】

イルカ研究会によって本個体群の個体識別調査が開始され、現在は御蔵島観光協会により20年以上調査が継続、イルカ一頭一頭に個体番号や名前がつけられています。今回この個体群で起きた里親行動の事例について、実母と里親の血縁関係と社会関係を調べることで、なぜ里親行動が起こったのかを検証しました。

【研究の詳細】

伊豆諸島御蔵島の周辺には、野生のミナミハンドウイルカが約120頭生息しています。2012年、赤ちゃんを連れたオトナメス、リンゴちゃん(当時15歳)が死亡しました。その後、 ワカメスのほっぺちゃん(当時 8 歳)がリンゴちゃんの赤ちゃんを 102 日間連れ、授乳も確認され、赤ちゃんを養育している様子が観察されました。野生鯨類で里親による直接的な世話(授乳)が確認されたのは世界で初めてです。

なぜ他者の子どもを育てたのか。酒井らの研究グループはそれを突き止めるため、実母と里親の血縁の近さを、血液サンプルと糞サンプルからDNAを取り出し調べました。血縁が近い個体の子どもを育てることは、自分の遺伝子を残すことにつながり、動物の世界ではよく見られます。しかし、両者は特に血縁が近いというわけではありませんでした。仲良し関係(親和的関係)にある個体同士も、持ちつ持たれつで助け合うことがありますが、過去5年間の映像を分析したところ、両者は、お互いに触れ合ったり並んで泳ぐといった親和的行動は全くしておらず、2個体の間に特に強い社会関係は認められませんでした。また、社会行動ができるくらいの時間間隔で、両者が頻繁に同時間帯に観察されたこともありませんでした。

これらのことから、両者の間には強い血縁も親和的関係もなく、ほっぺちゃんは、“リンゴちゃんの子”であるから救ってあげた、という可能性は低いと考えられます。ほっぺちゃんはおそらく、偶然リンゴちゃんの事故現場に居合わせ、赤ちゃんに近づいたのでしょう。例えばみなしごの子猫をイヌが育てるなど、他者の子を育てるというのはよくある事例です。しかしそれらは、親代わりの個体が現在子育て中だったり、自分自身の子を失った直後であることがほとんどのようです。ほっぺちゃんが子どもを育てたことのないワカメスだった、という点も今回の事例の興味深い点です。

【今後の展開】

今回の研究により、野生のイルカが血縁関係や親和的社会関係のない他者の子どもを里親となって育てるという行動が世界で初めて確認されました。イルカは他個体を助ける行動がよくみられる動物です。そのようなイルカの「助ける」という特性が、今回の事例につながった可能性があり、そのような特性が里親行動に影響を与えたのかどうか、今後の研究により明らかにしていく方針です。人間と同じく複雑な社会で暮らすイルカの「他者を助ける」行動に関する研究は、人間社会における助け合いがどのように進化してきたのかを紐解くひとつのヒントになりえます。

【酒井麻衣プロフィール】

近畿大学農学部水産学科海棲哺乳類学研究室講師(研究テーマ:イルカの社会行動)
生年月日:昭和53年(1978年)3月29日38歳
平成17年(2005年) 4月 日本学術振興会特別研究員(DC)
平成18年(2006年) 9月 東京工業大学大学院修了、博士(理学)
平成18年(2006年)10月 日本学術振興会特別研究員(PD)
平成20年(2008年) 4月 東京大学海洋研究所特任研究員
平成21年(2009年) 7月 東京大学生命科学ネットワーク特任助教
平成24年(2012年) 4月 日本学術振興会特別研究員(RPD)
平成27年(2015年) 4月 近畿大学農学部水産学科海棲哺乳類学研究室講師(現職)

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