食品栄養学科Department of Food Science and Nutrition

医療チームの一員として力を発揮する、食と健康のプロフェッショナルに。

現在食生活考

健康講座7

農学部 食品栄養学科(管理栄養士養成課程)

准教授 吉川 賢太郎
飲酒と生活習慣病

 平成8年12月に当時の厚生省公衆衛生審議会から、今までの成人病という考えから新しく生活習慣病の概念が提案され、一次予防の重要性が認識されるようになりました。つまり成人になれば必ず罹る疾患を早く見つけて早く治療(早期発見、早期治療:これを二次予防と言います)して長生きしましょうという考えから、積極的に健康増進すること(これを一次予防と言います)によって生活習慣からくる高血圧、心臓病や糖尿病などの生活習慣病の発生そのものの予防を目指すこととされました。高血圧治療ガイドラインによる成人における血圧の分類では、至適血圧は収縮期血圧120mmHg未満かつ拡張期血圧80mmHg未満、また正常血圧130/85未満とされています。さらに、心血管病予防のために2005年に設定されたメタボリックシンドローム診断基準でも同様の値です。平成18年の国民健康・栄養調査報告によりますと収縮期血圧140mmHg以上または拡張期血圧90mmHg以上の高血圧症の割合は年齢と共に多くなり、40歳以上の男性で59%、女性で43%もおられます。平成18年11月の生活習慣病調査では、高血圧症有病者の総数は、約3,970万人に達しています。また、「健康日本21」(厚生労働省保健医療局)の試算によると国民の収縮期血圧が平均2mmHg低下すると脳卒中の死亡者は約1万人減少し、同時に日常活動動作(ADL)の新たな低下者を3,500人減らすことができ、さらに虚血性心疾患死の減少も加えると、循環器疾患全体で2万人の死亡が予防できるとしています。

 生活習慣病のリスクファクター(危険因子)として高脂肪、高塩分、高カロリー、運動不足や食事の偏りなどがすでに明らかにされ、食生活を改善することは重要なこととなりました。適切な食生活を営むと、がんは30%、脳卒中・虚血性心疾患は40~60%減少すると推定されています。

 飲酒により血圧が上昇することは、皆さんよく知っておられると思います。飲酒量が増えるほど高血圧の頻度は高くなり、また、血圧水準は高くなります。

 飲酒の血清脂質への効果はどうでしょう。血清HDL-コレステロールはアルコール摂取量に比例して増加し、逆にLDL-コレステロールはそれに反比例して減少します。 血清HDL-コレステロールが高ければ高いほど、また血清LDL-コレステロールが低ければ低いほど心臓冠状動脈疾患の罹患率が減少することが示されています。日本で初めて行われたアルコール摂取の脂質への影響調査は、高脂血症患者約5万人を対象として、6年間の前向き疫学調査J-LIT(Japan Lipid Intervention Trial)が有ります。その結果はトリグリセリド、LDL-コレステロール、HDL-コレステロールの三大脂質項目で冠動脈疾患の発症の指標としてHDL-コレステロールが最も良く、HDL-コレステロール値が高くなるにつれ冠動脈疾患の発症率は有意な低下を示しました。また、虚血性脳卒中を起こした539例についての研究ではHDL-コレステロール濃度が高いほど虚血性脳卒中の発症が少なくなりました。

 このように、軽度、中等度のアルコールの摂取は非飲酒者に比べ冠動脈疾患のリスクが小さいことが知られています。アルコールと循環器疾患死亡率との間にはU型あるいはL型の関係が認められ、適量の飲酒は虚血性心疾患のリスクを減少させます。その理由としてアルコールの血清脂質への影響や血小板凝集抑制への影響などが言われていますが、まだ定説はありません。さらに、慢性飲酒では夜間血圧の低下と日中血圧の上昇をもたらしますが、24時間血圧はあまり変わらないことが報告されており、エタノール量として男性で20~30g/日以下が適量とされています。しかし、当然では有りますが、アルコールの飲用によって血圧の低下を図るのは勧められていません。久山町をはじめわが国の栄養疫学調査の成績では、高血圧頻度はアルコール摂取量に対して用量依存的に増加し、少量の飲酒でも高血圧の危険因子になる可能性があると結論づけています。

 皆様、飲酒はくれぐれも適量で。